【こんなにも2】
〈Love is blind〉



剣心と暮らし始めてそろそろ4ヶ月。
あれから剣心とはラブラブだし、以前より食事も豪華になって左之助としてはハッピーライフで文句のつけようもないはずだ。が、いまいちこの恋人の性格が掴めないで居る。
相変わらず、気は短いし、手は早い。ちょっとからかっって気に入らなければすぐに殴られる。本人はご愛敬、かなり手加減していると言うが、武道の段持ちに殴られるんじゃ堪ったもんじゃない。最初に殴られた時に比べれば 確かに手加減はしているようだが、それでも時々カチンと来て喧嘩に発展しそうになることもある。
そうかと思えば生まれたばかりの子猫のように 愛くるしい瞳をくりくりさせて甘えてしなだれかかったりするのだ。悪いことにはそこはかとなく儚げな影を湛えていたりすることもある。そんな時には ああ、俺が付いててやらなくっちゃ、などといたく左之助の男心が擽られたりもするのだ。
女に掛けては手練手管を知り尽くしている左之助でも 男相手にはちょっと勝手が違い 早い話がこの3ヶ月、剣心に翻弄され続けていた。
この左之助様ともあろう者が、と思う。
だからベッドの上では何としても主導権を手放せない。
剣心を転がしていいように喘がせて その可愛い顔をとくと眺めるとしてやったりと思われて 少々頭に来ることなんかもケロリと忘れてしまう。
しかし、それも剣心にいいように扱われているだけなのかもしれない。
この間も風呂上がりに鏡の前で髪をドライヤーで乾かしながら
「あなたに男の子の一番大切なものをあげるわ〜♪」
なんて歌っていたりするくせに 「それじゃぁ。」と 左之助が抱き寄せると急に恥じらって頬を染めたりする。
なんだ?このギャップは? と思ったりするのだが、またそれが良かったりするのだから左之助も救いようがない。
要するに左之助は剣心にぞっこん参っていた。


ゼミの旅行で4日も留守にした。
退屈な教授の話や言い寄る女達の間で左之助は 剣心のことばかり考えていた。
ラブラブになってから4日も離れたことなんて無いのだから、いわば新婚夫婦の夫の心境だろう。夜になれば剣心を抱きたくなったし、声が聞きたかった。メールや電話じゃ物足りない。だから、旅行帰りに友人達から飯でもと誘われたが断って 早々に飛んで帰ってきた。
「ただいま。」と言って剣心を抱き上げ、「飯は?」と聞かれても「後で。」と言ってベッドへ直行だ。
ベッドへと転がした剣心へと早速とばかりにキスの雨を降らせ始める。柔らかな口唇を舌で割り、剣心の舌を絡め取る。
「そんな性急な。」と言う剣心の抗議は無視をして シャツの胸のボタンを外すのももどかしく 少し開いた首筋から胸へと手を差し入れる。小さな尖りを見つけて指の腹で転がすと 僅かに抵抗していた剣心の口唇から小さな吐息が漏れた。そのままなぞり、項を味わい始めると 剣心が首を預けながら左之助へと問いかけた。
「なぁ、左之。俺は男だよなぁ?」
「ああん? 何言ってんだよ。突然に。見た目はともかく・・痛ぇ。」
「それは余計だ!」
すぐさま剣心の握り拳が頭に飛んできた。
「ほら、こんな風に気が短くて暴力的な女なんか居るかよ。何だってんだ?」
突然の解りすぎた質問に左之助は半ば呆れて返事を返した。
「と言うことは、俺は男でお前も男。身体の構造は同じなんだから 感じるところも同じってことだよな?」
「へっ? いったい何が言いたいんだ?」
胸をまさぐっていた手を止めて 左之助は剣心の顔をじっと覗き込む。まったくこんな時に何を真面目に議論し出すんだと 早く剣心を抱きたい左之助は心の中で溜息をつく。
「だから!! 何でいつも俺が下なんだ?」
「はぁ?? 何言ってんの? お前犯りたいの?」
「そう言うわけでもないけどさ、でも初めから決まってたようにこうなってて 何で何時の間にどうして?って思ったんだよ。お前も俺もモーホーの趣味があるわけでもなし、ただ気づいたら好きになったお前が男で、俺も男だったわけで。お互いもっと近づきたいって思ったからSEXして。でも、身体の構造が同じだったら 反対でもいいわけじゃん?」
大真面目な顔をして話す剣心に 堪らず左之助が吹き出した。
「お前。俺がお前の下で喘いでる姿を想像してみろよ。んなもん気持ち悪くって出るもんも引っこんじまわぁ。」
「そうかなぁ? そんなの試してみなくちゃ分かんないだろ?」
いったい俺の留守中に何を考えていたんだ? コイツは・・・何か悪いもんでも観たのかな・・・・それとなく周囲を見回してみるが、別に妖しげなAVが置いてあるわけでもなさそうだ。
「お前、それ、本気で言ってんの? 馬鹿馬鹿しい。試さなくっても分かるって。やだね、俺は。」
「そんなの不公平じゃないか?」
「何で? お前俺に抱かれて感じない?」
「そりゃぁ・・・・」
「いいんだろ? だったら問題ないじゃねぇか。」
「でも、反対でも身体の繋がりを求めるんだったらいいわけだろ?」
「あ〜〜、もう四の五のとうるさいヤツだなぁ。わかったよ。何でお前が下かって証拠を見せてやらぁ。」
そう言うと左之助は剣心のシャツを引っぺがし、自分も一気にTシャツを脱いで腕を引っ張った。玄関近くの壁に設えられた姿見の前に剣心を立たせ、その後ろから抱きすくめるように自分も立つ。
「ほら、よく見ろよ。背の高いのはどっち?」
「左之。」
「んじゃ、華奢なのは?」
「俺。」
「じゃぁ、色気があるのは?」
「お前。」
「バ〜〜カ。そうじゃねぇだろ? ほれ、よく見てみろよ。俺の胸ん中にすっぽりと収まるお前の頭。ふわふわ揺れるたびにクラッとするようなそそる長い髪。」
鏡の中の剣心へと話しかけながら 左之助の指は剣心の頭に潜り、髪を揉みしだく。小さな一握りをスーと引っ張って自分の鼻先で弄ぶ。
「透けるような白い肌に綺麗な二重を縁取る長い睫。」
言葉の通りに剣心の頬を撫で、瞼をくすぐる。
「この口唇なんか見てみろよ。薄赤くって触れたいって思うだろ?」
鏡の中の剣心が首を横に振る。それに構わず親指の腹で剣心の口唇をなぞってゆく。
「ほら、口を開けて。」
なぞっていた指を剣心の口の中へと入れて ゆっくりと侵しはじめる。半開きの口唇の間から綺麗な歯列が覗いて その奥には赤い舌が艶めかしくちろちろと蠢いている。
「痛っ。」
口の中を嬲りだした左之助の指を剣心が噛んだ。
「何すんだよぉ!痛ぇじゃねぇか。」
「だから、色気なんか無いって言ってるだろ? 俺のどこに色気があるってんだよ?」
口唇を尖らせて振り向き左之助を睨めつける。
「お前、全然判ってねぇぜ。ほらっ、手を出して。」
剣心の顔を両手で挟んで前を向かせ、腕は鏡へと伸ばさせて両手をつかせた。
「何だよ?」
「いいから、黙って見てろよ。目ぇ、背けんじゃねぇぜ。」
言いざま、背を覆う剣心の髪を掻き分けて項へと口唇を落とした。耳の後ろから息を吹きかけ、ゆっくりと項を味わっていく。くすぐったいようなゾクゾクする快感に 剣心の顎が上がり、うっすらと瞼を閉じる。
「オイ、目ぇ開けてろって。」
左之助の言葉に閉じかけた瞼を開いてみると、早くも蕩けそうになっている自分の顔が見えた。
俺、いつもこんな顔してんのか・・・
左之助の口唇を肌で感じながら 惑わされる意識の片隅で剣心は思った。
鏡の中の左之助は時々剣心の表情を確かめながら、肩や背中となぞって行く。前に回された指が剣心の乳首を探し当て、指で転がし優しく摘んだ。
「んっ・・・」
胸から伝わる刺激が剣心の背を反らす。長い髪が背中から零れ落ちてさらさらと揺らめき、左之助の鼻先をくすぐり出す。ウエストのくびれた部分に舌を伸ばしてなぞり、音を立てて吸い上げる。その左之助の表情は剣心を盗み見てはとても楽しそうだ。
ゆるやかに剣心の肌をいたぶりながら 確実に欲情の海へと堕として行く。前に回した指は剣心の胸を責め続け、空いた手は背中を彷徨い時折爪を立てる。
「・・・ん・・・あぁ・・・」
軽い痛みさえも刺激に変わりぞわりと背中を駆け抜ける快感に しどけなくほどけた口唇の奥で小さな吐息が漏れ続ける。
「オイ、ちゃんと見てるか?」
間断なく送られてくる刺激にともすれば閉じようとする剣心の瞼を 声を掛けては開かせて ぱっちりと開いた瞳を見つけると 左之助は剣心のジーンズに手を掛け、下着も一緒に一気にずり落とした。
「や・・左之・・・やめ・・・・」
「何で?」
「こんな・・・イヤだ・・・・自分の姿なんて・・・」
熱を持ちだした分身が赤く熟れて髪と同じ色の茂みの中から反り上がっている。恥ずかしさに思わず目を閉じる。 その間も左之助の指と口唇は脇をなぞり、首を伸ばしてうっすらと色づく乳首を舌で転がして剣心の快楽を誘い出す。
「いつも見てるじゃねぇか。今更どうって事もねぇだろ?」
「だって・・こんな・・・明・・るい中で・・・まともに・・・見るなんて・・・耐えら・・れない・・」
胸から伝わる刺激に途切れ途切れに言葉を漏らす。
背中から尻を辿り、太腿から関節の裏まで吸い上げられて 下から這い昇る快感に剣心の膝は震えそうになる。そして背が跳ねるたびに分身は固さを増してぶるりと震える。それに目を閉じて耐えようとする剣心へと
「何だ、まだ羞恥心が残るほど冷静なのかよ。んじゃ。」
言うなり背を向けて左之助は剣心の足の間に座り込み、上を向いて下からそそり起つ剣心自身を舐め上げた。
「ひゃっ・ん・・ああ・・・・」
眉根を寄せて思わず漏らした剣心の声にニヤリと笑うと 赤い舌を見せてくびれの裏を丁寧に擽り、手を添えてゆっくりと剣心を呑み込んで行く。固く起ち上がった先からとろとろと零れる蜜を わざと音をさせて吸い上げ、鈴口の先へと舌を尖らせて割り開く。
「・・んんっ・・・っ・・・」
身体中の熱が下半身へと集まり始め、頬を上気させて苦痛に耐えるような表情が この上もなく左之助を煽り立てる。
上目遣いに剣心を見つめて「色っぺーー。」と漏らした声に「バカ。」と吐息の間からすかさず返事が返ってきた。
「なぁ、見てみろよ。お前、すんげぇいい表情してるぜ。」
嬉しそうな左之助の声に目が開けられない。
「ん・・ヤだ・・・・自分・の・・姿に・色気を感・・・じるヤツなんか・・・いるかよ・・・」
「でも、お前を見てるとゾクゾクすんぜ。もっと啼かせてやろうっと。」
悪戯っ子のようにニヤニヤ笑いながら腿を這いまわっていた指に唾液を零して 剣心の秘肛へと忍ばせて行く。固く閉じられたそこをゆっくりと円を描くようになぞり、蕾に指を押し当てる。もうそれだけで剣心の息が上がってくる。そのくせ声を殺して耐えようとする無駄な努力に 左之助はほくそ笑む。そこだけが別の生き物のようにビクビクと左之助の口の中で震える昂りを舌で嬲り、息づく襞へと押し当てた指に力を入れて身体の奥を徐々に探っていった。
「・・んっ、ふぅん・・・・」
背を反らし、喉を仰け反らせる。僅かに見える喉仏が白く艶めかしく剣心の息に合わせて上下する。長く伸ばした首の下には綺麗な窪みを描く鎖骨が広がり、色づいた胸の尖りがつんと上を向いている。熱を持った身体の中は左之助の指を締め付けて絡まる肉が奥へ奥へと誘い込む。
ゆっくりと抜き差しを繰り返して ウィークポイントを探り当て 指を曲げて刺激をすると剣心の背がたおやかにしなった。
「っく・・あっ、はぁ・・アアッ・・・・」
堪らず切れ切れに声を零し、鏡を押さえていた剣心の指が冷たいガラスに爪を立て 空しく滑っていく。背を揺らし腰をくねらす剣心の反応を楽しみながら 左之助の口の中で昂る雄に指を添えて前後に扱き、身体の中の指は剣心の深いところまで責め立てる。そして激しく責め立てたかと思うと左之助の口唇は意地悪く離れてしまう。
男同士なだけに剣心がどうして欲しいか どれぐらい感じているのか手に取るように想像がつく。こういう時に左之助は主導権を握るのは自分だと 少々優越感を感じたりしてしまう。そして、焦れて左之助を求める声を引き出して 更にニンマリと笑いたい。
だが、剣心は夢中になりかけていた感覚を不意に取り上げられて 少し冷えた頭で思う。

コイツってマメだよな。いつも俺をギリギリ我慢できないところまで時間を掛けて責めるよな。もし逆だったら俺にそんな真似が出来るかなぁ。あっ、ヤダ、面倒くさい。
そりゃ左之助の為だったら何でもしてやりたいけども、毎回ってなると面倒くさくってSEXするのもイヤになりそう・・・俺にこんなマメさってないよなぁ。
今だったらたとえ俺がマグロのようにベッドで寝てても 勝手に左之助が夢見心地にしてくれるわけだし・・・楽だよなぁ。それにすっごく感じるし、ヤルよりイイかも・・・・何の気なしに言ったけど、やっぱ面倒くさいから俺、下の方がいいや・・・

内部に籠もる熱をゆっくりと追い軽い息を吐く剣心へと指を増やして 更に左之助が弄り始める。
襞を丁寧になぞり、剣心の身体が誘うまま奥へと指を忍ばせたり、前立腺の後ろを擽り続ける。左之助がもたらす甘い罠に酔いしれ、理性も意識も飛びそうだ。頭を振って背を震わせる剣心の肌がしっとりと汗ばんで ほのかな桜色に染まり始める。しっとりと押し包む口の中の粘膜と微妙な舌の動き、茂みの下で重さを増した袋を揉みしだく優しい手の感触、それでいながら敏感な場所を探っては中を掻き回す意地悪な指の動きに 身体の中で渦巻き始めた熱い感覚が荒れ狂い、為す術もなく剣心は支配されていった。
「んっ、あぁ・・ああ・もう・・・さの・・・」
苦しそうに息を零して固く眉を寄せながら濡れた声で剣心が訴えた。
「もう何だよ?」
問い返す左之助の瞳は嬉しそうに輝いて 瞬くように震える剣心の長い睫をじっと見ている。
「ヤッ・・イきそう・・・ぁんっ・・・・アア・あっ・・」
「いいよ。イけよ。」
「んっ・ヤだ・・・一緒に・・・・・はっ、アア・んっ・・」
ギリギリの所まで追いつめられて苦しさに剣心は身を捩った。

いつも一緒にイきたがる剣心が左之助は堪らなく可愛いと思う。もう我慢も限界に近いだろうに必死に耐えて左之助を迎えようとするその気持ちが嬉しいし愛しくなる。
だが剣心はイきたいのはやまやまだが 後のことを考えるとイくにイけない。
どうせ左之助はこれで剣心を解放するわけはなく、いつも声が枯れるまで喘がされ、腰が抜けるほど貫かれるのだ。ヤりたい盛りの十代の男と一緒にされては堪ったもんじゃない。どうせ必ずイカされるのだから それだったら焦ることもない。一度でも少ない方が体力的に楽だし、一緒にイった方が満足度も大きい。量より質だと思うのだ。これは大人の余裕というヤツだな、と心の中で呟いている。

立ち上がり剣心の背後へと回って腕の中にすっぽりと抱きくるむ。
鏡の中で左之助にすべてを預けきって寄り添う剣心は しっとりと掻いた汗に髪を張り付かせ、淫らで艶めかしく左之助を激しく欲情させる。こんな姿も自分しか知らないのだと思うと左之助は叫びたいほど嬉しくなる。頬に口づけ唇を奪いながら背中からなだらかに続く曲線の溝を割り、先ほどからはち切れんばかりに昂っている楔を充分に解された蕾へと宛う。したたる自分の蜜を塗りつけて入り口を辿ると 左之助を迎えようとするかのようにヒクつき奥へと誘う。
ほんの少し楔を進めると剣心の身体が強ばった。
「力抜けよ。」
腕の中で眉を寄せてきつく目を瞑る剣心へと 髪と一緒に耳朶に口づけ、優しく左之助が囁いた。
大きな胸の中で左之助の体温を一杯に感じながら、指とは比べ物にならない大きさの熱い質量の進入に 腕にくるまれる安心感と引き攣れるような下半身の痛みが剣心を覆う。それで居ながら身体の中は左之助を恋しがるかのように深く奥へと誘い込む。左之助はゆっくりと迷宮の中へと沈めていった。
腕の中の剣心は壊れてしまいそうなほど華奢で 痛みを堪えている姿をいつも少し可哀想に思い、その分余計に愛しさが増す。
こんなに痛そうなのに黙って我慢して・・・俺の出来る限り感じさせてやらなくっちゃ、などと思うのだ。
「大丈夫か?」
「ん・・・」
「少し動くぜ?」
狭い剣心の中は食いつくように左之助を締め付けて 燃えるような身体の熱が陶酔させ、頭を痺れさせる。このまま一気に貫いてしまいたい衝動をかろうじて堪えて 剣心の呼吸へと身体の動きを合わせてやる。
左之助が動く度に内蔵まで引きずられそうな感覚が 徐々に別の物にすり替わる。
奥歯を噛みしめて喉の奥で啼いていた痛みを耐えるかのような声が 次第に艶めき色に濡れる。擦られる内壁に身体の中心へとすべての神経が集まって 熱いうねりの中で左之助とひとつに溶け合い快楽の波に呑まれていく。
反り返る剣心の白い背が 緋い髪に彩られて左之助は綺麗だと思った。そしてこんなにも自分を夢中にさせるこの男のすべてを支配したい欲望に堪らなくなって 激しく腰を突き上げた。
「うっ・・アア・・っ・・さ、の・・・」
剣心の髪が跳ね、妖しく腰が揺らめく。全身で左之助を感じ、左之助の名を紡ぎ、(みだ)れる剣心が堪らなく愛しい。
深く浅く穿たれ、翻弄され、立っているのがやっとの剣心は 前の鏡にすがりつき助けを求めるように頬を預けた。浅く息を継ぎ、絶え間なく零れる濡れた吐息の中、隠れていた左之助が映し出される。
細い腰を抱き、貫く自分の姿は男の征服欲を満足させる。と同時に、ふと思った。

もしかして男にとってこの姿って・・・屈辱的だよな・・・・さっき剣心が言った様に反対になったら・・・・
ウエェー、堪んねぇ!! 俺、萎えそう、ぜ〜〜ったいにイヤだ!
でも・・・・・コイツいっつもこんな気持ち味わってんだ・・・・何か可哀想だなぁ。コイツがこっちの方が好きだってんなら話は別だが、そうじゃねぇもんな。俺と一つになりたくて我慢してるんだよな・・・だからさっき、あんな事言ったんだ・・・・・
ウワァー、何か涙が出るほどコイツの気持ちって堪んねぇ!! 俺、コイツを大事にしてやらなくっちゃ!

「剣心・・・・」
剣心への想いが溢れそうで名前を呼んだ。切なさに胸が詰まり身体をかき抱いた。
蕩けそうな剣心の柔襞に包まれて 熱に浮かされ夢中で腰を突き上げた。
左之助が穿つ動きに合わせて 剣心の雄がはち切れそうに欲望を湛えて赤く熟れ、ふるふると揺れている。
手を伸ばし優しく握りしめると止めどなく滴を零し続けていた欲が 左之助の指をしとどに濡らす。
「んっ!ハァ、ああ・・・・」
夥しく押し寄せる戦慄に剣心の意識も真っ白に塗り潰され、呼吸すらも忘れて嬌声を解き放つ。緋色の髪を振り乱し戦慄(わなな)く身体を左之助の汗が濡らした。
「アアッ! 左之・・・ダメ・・だ、もう・・・・」
苦しげな吐息の中から 身体中を駆け抜け中心へと集まった快楽(けらく)を奥歯でかみ締め、キリキリと音を立てる。
「置いていくなよ。なっ。」
背中越しに囁いて、激しく腰を打ち付けて更に深く剣心を抉った。
身体の中心が熱い。とぐろを巻いて渦巻く熱が稲妻のように背中を駆け抜け、一気に破裂する。
「くっっ!! ハァ、アアッ!!・・・」
一瞬息を止め、鏡に食い込むほどに爪を立て 深い溜息とも聞こえる吐息をついて左之助の手の中へと溢れる白い精を吐き出した。と同時に左之助も絡まる襞の収縮に痛いほど押し包まれて 剣心の身体深くへと思いの丈を放った。
痙攣する身体の奥でいっぱいに左之助を感じた。堪らない愛しさが込み上げてきて 荒い息の中で微かに左之助の名前を囁いた。その声が軽やかに左之助の鼓膜へと届いて深い悦びに包まれる。
一つ深い息を零し、左之助の大きな腕が剣心を包み、優しい唇が落ちてきた。軽く口唇を重ねている間も剣心の呼吸は速い。腕の中で力の抜けて行く剣心を抱き留め、抱き上げて奥の部屋のベッドへと運ぶ。その横へ覆い被さるように左之助も身体を横たえた。
ぐったりとしながら呼吸を整える剣心を抱きしめて口唇に触れた。閉じた瞼が薄く開かれ、左之助の笑顔を見つけて剣心が微笑を返す。抱き締め合って、髪に触れ、頬を指先で辿り、瞳の中に優しさを見つけて見つめ合い、キスを交わし、そしてまた二人に笑顔が零れた。
ゆるやかに流れる時間の中で名前を呼んで微笑み合って 啄むようにキスをした。

「左之はいつも嬉しそうだな。」
包み込まれた左之助の腕の中から顔を上げて 穏やかな表情で剣心が言う。
「ん、そうかもしんねぇ。お前は可愛いって言うと嫌がるけど お前が感じてる時ってすんげぇ可愛んだぜ。切なそうな顔を見てるともう何でもしてやりたい、もっと感じさせてやりたいって思えるもんな。何かそれが嬉しくなっちまって・・・何つうの、こんな気持ち・・・・・・
だぁ、ったく、こんなちんけな言葉しか浮かんでこないけどよぉ、他に何も見つかんないから仕方がねぇか。」
そう言って剣心の耳元に口唇を寄せると小さな声で囁いた。
「アイしてる。」
花が零れるように頬を染めて はにかむ笑顔で剣心が左之助の背中を抱きしめた。
「ん、俺も。」
「いっぱい感じたか?」
「うん・・・・・左之・・・・俺、左之が俺を見てそれで喜んでくれるならずっと下でもかまわない。」
特上の笑顔を見せて言う。
剣心はちゃっかりしている。あんなに感じていたことも、面倒くさいから、などと言うこともおくびにも出さないで左之助の為だと瞳を見つめる。
これも年の功というヤツか・・・・
「うん、もっともっと感じさせてやっからな。お前を俺でいっぱいにしてやるぜ。お前がもういいって言ってもな。」
なんて可愛いことを言うヤツだと 感激に胸を震わせて嬉しさに笑顔を零す左之助も 救いようもなくつくづくお目出度い。
それでウマくいっているのだから ()れ鍋に()じ蓋なのだろう。
「ん・・・左之。」
「ん?」
「もう一回しようか?」
「おう、望むところよ。」

やっぱり左之助はハッピーなのだ。きっと、確かに・・・・


                           了  2004.5