〈 1.2.4 〉 大学へと行く左之助に駅まで一緒に行こうと剣心も家を出た。 左之助の横を歩きながら剣心はしきりと口を開けて 舌を出したり引っ込めたりして風に当てている。 「あー、んとにムカつく!!親父のヤツめー。まだ口がひりひりするぜ。」 「お前あんなのよく食ったよな? 胃は大丈夫か?」 左之助はそれを横目で見ながら半分心配し、半分呆れて思い出し笑いを噛み殺すのに必死だ。 「仕方ないじゃないか。バレたんだから・・・食わなきゃまたどんな目に遭うか判んないし、お前と俺と二人で立ち向かっても勝てるかどうか判んないからな。」 「親父さんってそんなに強ぇのか?」 「アア、あの体格を見りゃ判るだろ? 化けもん並みにな。俺、小さい頃にテレビを見ててさ、ウルトラマンが出てきて親父をやっつけてくれないかなと思ったもんだぜ。でも、今考えりゃ、きっとウルトラマンでも尻尾を巻くと思う。親父に比べりゃあそこに出てくる怪獣なんか可愛いもんさ。」 「なんかすげぇ言われ様だな・・・・それよかさ、さっき言ってた先輩って本当に大丈夫なのかよ?」 左之助にすれば当面の怪獣よりも剣心に襲いかかるかも知れないオオカミの方が心配なのだ。襲いかかられるだけなら何も心配は要らないのだが、襲われてもいいと思うような先輩だったらと思うと気が気ではない。 「うん? ああ、あれは単なる口実さ。先輩が事務所を開いたって言うのは本当だし、今日顔を見せるつもりだけど、親父のことを親父の事務所へ行ってちょっと藤村さんに聞いてこようかと思ってさ。ほら、親父の前でそんな話って出来ないだろ? 幾らなんでもずっと居座り続けてるって何かおかしいと思って一昨日、藤村さんに電話したんだよ。そうしたら今日は陶芸の何とかって会があるから 午前中は絶対に親父が事務所に来ないって言うもんだから その隙にちょっと藤村さんに会って色々話を聞いてこようかと思ってるんだ。そうすれば親父が帰るような方策が練れるかもしれないだろ?」 「おっ!ってことは、俺達の明るい未来が取り戻せるかも知れないって事だよな?」 「ゴメン、左之。お前にまでずいぶんと迷惑を掛けちゃって・・・」 「へへ、いいってことよ。気にすんなよ。それよかさ、お前何時頃なら今日身体が空くわけ?」 「うん? 話にも寄るだろうけど何で?」 「せっかく出てきたんだし、俺、今日バイト休むからさぁ、夕方からデートしないか?」 「デート!!??男同士で?」 「男同士だろうが何だろうが好きなもん同士が 飯食ったりぶらぶらするんだからデートだろう?」 「まぁ、そう言われりゃそうか・・・・うん、いいよ。お前にも迷惑掛けてるし、飯ぐらい奢ってやるよ。」 「おぅ、じゃぁ決まりな。4時から後なら俺の方はいつでも構わないから、後で都合のいい時間をメールで知らせてくれ。」 「OK、わかった。」 「じゃ、後でな。」 話の纏まったところで左之助は2駅向こうの大学へと向かう為に 下りの改札口へとその長身を滑り込ませた。周りの人々よりも突出した後ろ姿を見送って 剣心も比古の事務所へと向かうべく上りの階段を足早に駆け上がった。 夕刻、剣心の先輩の事務所にほど近い駅で待ち合わせをして 街の中をぶらついた。夕飯の時刻にはまだ早いからと二人で雑貨店を覗いたり、ジーンズを買うという左之助のショッピングにつきあったりして過ごす時間は 久しぶりに誰に遠慮の要らない楽しいものだ。やっぱりラブラブカップルのデートはこうでなくっちゃと 左之助が剣心の肩を抱きかけては 「男同士で気持ち悪いことをするな。」と足を踏まれ、蹴りを入れられたが、ほんのじゃれ合い程度の諍いなど比古とのバトルに比べれば楽しい余興にしか過ぎない。 上機嫌で何でも好きな物を奢ってやるという気前の良い剣心の言葉に 軽く呑みたいからと創作料理がメインの居酒屋ののれんを潜った。 和を基調として現代風にアレンジされた落ち着いた店内は 会社帰りのサラリーマンやOLで半分ほどの席が埋まっている。奥まった窓際に空席を見つけ、二人はそこへ腰を落ち着けた。 注文を聞きに来た女の店員が頬を染めながら左之助に『今日は鯛の良いのが入っています。それから他にも・・・・』としきりに話題を探して話しているのを 剣心は横目で見て見ぬふりをし、先付けを運んできた男の店員が剣心に見とれて器をなかなかテーブルに置かないことに左之助が歯がみをしたが それでも久しぶりの二人きりの時間に心が弾むことには変わりはなかった。 饒舌に左之助が語り剣心を笑わせる。そしてその笑顔にまた左之助が嬉しそうに笑う。それぞれに注文した飲み物が運ばれ、幾つかの料理が揃うと 楽しすぎてすっかり忘れていたすべき話題の比古のことをやっと思い出した。 「そう言えば親父さんの方の首尾はどんな感触だったんだ?」 「ん? ああ、これだとハッキリしたことは言えないんだけど どうやら先が見えたって感じがしないでもないな。」 「って、具体的に言うと?」 「藤村さんの話によると親父の機嫌が悪くなったのは 俺達の家に来る2,3日前からだそうだ。で、差し当たっての原因って言うのは藤村さんには分からないって言うんだけど、何か周りで変わったことはなかったかってよく聞き込んでみたら、どうやら葵屋の女将に縁談が持ち上がっているとか・・・」 「何だよ? その葵屋ってぇのは?」 「親父の山の家の近くにある料理旅館なんだ。そこの 「じゃ、お前の親父さんはそこの女将に惚れてたって事か?」 「その辺がよく分からないんだけど・・・」 「何だよ、それじゃ話になんねぇじゃねぇか。何で親父さんが機嫌が悪いかって事だろ? 惚れてたんならいざ知らず・・・」 「うーん、そこが問題なんだけど・・・あの親父が俺に本心なんか言うわけないだろ? かなり前の話になるんだけど、その未亡人には操って一人娘が居て 操ちゃんが言うには彼女のお袋は俺の親父に惚れてるんだって。親父ってあれで結構女にはモテるらしいんだ。どこがいいのかわかんないけどな。」 「性格はともかく見た目はなかなかカッコいいんじゃないか?」 「らしいんだよな。女からすると・・・親父の作品よりも親父が目当てで蒐集していたりするファンが居るって言うから驚きだよ。でもあの性格が分かったら 絶対にみんな塵のごとくに去って行くな。でも操ちゃんのお袋は知りすぎるぐらいにあの親父の性格を知ってるんだよな。それでも好きだって言うのが俺にはちょっと信じられないけどさ。 で、さっきの話に戻るけど 操ちゃんはうちの親父もまんざらでもないって言うんだよ。それは操ちゃんの女の勘らしいんだけど・・・で、その時に操ちゃんと相談して じゃぁ二人をくっつけてしまえってことになってさ。だから親父に言ったんだよ。俺のことなら気にしないでいいからいつでも嫁を貰えって。葵屋の女将なんかどうだ?って。そうしたら『お前は俺をこれ以上不幸に陥れる気か?』だってさ。」 「何で? 親父さんはその女将さんとやらをやっぱり好きじゃなかったのか?」 「いや。それはどうだか判んないんだけど 親父が言うには『結婚してクソ生意気な 「ってことはお前も今回は脈有りと踏んだってぇわけか? だけど縁談が決まったんなら手遅れじゃねぇの?」 「そこだよ。問題は。俺も手遅れに成っちゃと思って操ちゃんに電話をしてみたんだ。そうしたらその縁談は昨日キッパリ断ったらしいんだ。」 「やりぃ!!」 「なっ! 俺達の未来も光が差してきたって感じだろ?」 「ってことは親父さんはまだ知らないんだな? でもお前の親父さんがそれを聞いたからって帰るか?」 「うん、それだけど、もし惚れてるとしたら機嫌も直って憂さ晴らしに俺を苛めなきゃ成らない鬱憤は消えるってわけだろ? どう見ても憂さ晴らしにしか見えないし・・・だいたいあの親父が他人の家でこうもゆっくりしてる方がおかしいんだ。」 「それでウマくいきゃぁいいけどな。」 「ああ、きっと俺の睨みに間違いないって。明日、お前が出て行ってから世間話でも聞かせるついでにそれとなくこの情報を流してみるよ。」 「よし! じゃぁ、これで手筈は整ったな。剣心、前祝いと行こうぜ!」 「ああ、親父が出て行くことに!」 「俺達の明るい未来に!」 「乾杯!!」 二人は晴れやかな笑顔でそれぞれのグラスを高く掲げた。 その頃比古は当然のごとく、一人寂しく大きなくしゃみをしていた。 食べきれるのかと心配した料理の数々は左之助がすべて平らげ、ほろ酔い加減で二人は店を出た。 まだ寄りたいところがあるからと言う左之助につきあって 肩を並べて街の中を歩く。宵の口の通りはサラリーマンやOL、カップルで溢れ、並ぶ店々からは明るい照明が漏れて華やかだ。その中を歩く二人は酔いも手伝って会話は途切れることがない。 ブティックや雑貨店が並ぶ通りを越えると街は少し景色を変えて、居酒屋やスナック、ファッションマッサージといった類の雑多な店が並び出す。通りの両脇に出た猫なで声の客引き達が 会社帰りのサラリーマン達の袖をしきりと引いている。その中の一人が左之助に声を掛けたが 「連れが居るんで。」の一言にカップルだと思ったのかあっさりと離れて行く。その間をすり抜けて路地の角を曲がると街の景色は途端に変わった。 けばけばしいネオンが瞬くラブホテル街だ。 会話に夢中になって周りの景色に注意を払っていなかった剣心が ようやく左之助の思惑を知った。 「左之、お前・・・・」 「へへへ・・・なっ、いいだろ?」 「ヤだ!」 「何で? まだ時間も早いし、少しぐらいゆっくりしたって・・・」 「俺は男同士でラブホテルへ入る趣味なんか持ち合わせちゃ居ない。」 「大丈夫だって。誰もお前のことを男だと思ったりしねぇって。」 ボカッっっっっっっっ!! 失言だった。 左之助を殴り倒してさっさと踵を返し 剣心は元来た道を戻って行く。 「おい、ちょっと待てよ、剣心。」 「フンッ!」 早足で前を進む剣心に左之助が小走りで追いすがった。 「言い方が悪かったんなら謝るからさぁ。」 「人が気にしていることを・・・」 口唇を尖らせて剣心はまっすぐ前を見て進んでゆく。その剣心の斜め後ろに並び、頭一つ分高い位置から左之助が一生懸命言い訳をする。 「だから悪かったって・・・お前が男だってことは誰より俺が一番よく知ってんだから・・・・単なる言葉のアヤだよ。アヤ! でも周りの目を気にしてお前は言ってんだろ? だから・・・」 「もういいよ。別に大して怒っちゃいない。言われ慣れてるからな。」 「だったら・・・」 「だからって俺の理性までは麻痺していない。」 「じゃぁどうすりゃいいんだ?」 「どうもしなくていい。」 「えーーーー! そりゃないぜーー! せっかくこうしてデートしてるってぇのに。」 左之助の素直な悲痛の声に思わず剣心は心の中でくすっと笑ったが それをいっさい顔には出さない。相変わらず前を向いたまま、口を一文字に結んで怒ったような表情だ。そのすました横顔に左之助はぶつぶつと文句を言い始めた。 「だいたいもう何日我慢してると思ってんだ。それも毎晩毎晩、お前を腕に抱いたままお釈迦さんのように品行方正にしてる俺なんざぁ 神様だってびっくらこいて目を回しちまわぁ。」 「じゃぁもう少し驚かしておくんだな。」 「やい! コラッ! 剣心。 お前はどうもねぇのかよ? あんな蛇の生殺しのような状態でよぉ。お前は年食ってるからどうもねぇのかもしんねぇけど、俺の身にもなってみろよ。」 「悪かったな、じじいで!」 「あっ、いや、だからぁ・・・・・お前があんまり可愛いもんだから抱きてぇってことで・・・・あーーー!!!どう言やいいんだ? 抱きてぇ、抱きてぇ。抱きてぇ。ヤリてぇ、ヤリてぇ、ヤりてぇ!」 「左之!! そんなことを大声で言うな!」 別に大声で叫んだというわけでもないが、元々左之助の声は大きい方だ。すれ違う人々が二人の会話に注意を払っていなくても 最後の方の言葉は幾人かの耳には届いたらしく、ちらっと盗み見てくすくすと笑って通り過ぎて行く。それを知って剣心が頬を真っ赤に染めているのは左之助が計算した通りだ。 「まるで駄々っ子のようだ・・・」 眉間に皺を寄せて困惑しきった表情で隣の左之助を仰ぎ見る。 自分だって大人の男だ。人並みに性欲は感じるし、好きなヤツと肌をくっつけていれば触れたいと当然のように思う。だけどそれを左之助のように表に出さないのは 大人としての当然のたしなみじゃないかと思う。 大人びているかと思えば急に子供になってしまう十九の男に深い溜息が漏れる。が、自分もまた比古の前ではまるっきり子供のようだということは更々念頭にはない。 「だったらよぉ、剣心、ちょっと寄って・・」 「ヤだったら、ヤだ!!」 キッパリと言い切って前を向いて歩く剣心に 左之助は立ち止まり諦めの溜息を吐いた。もう少しで落とせると思ったのだが こういう時の剣心は何を言ってももう無駄だ。今夜もお釈迦様に褒めて貰うしかなさそうだ。 「ちぇっ! せっかく二人きりになれたってぇのに・・・・」 未練げに左之助はブツブツ小声で言いながら また剣心の少し後ろに付いて歩き出した。今日は上手くラブホへしけ込んで、などと朝から目論んでいただけに当てが外れてがっかり度はうなぎ登りだ。こんな腐った気分で比古の待つねぐらへと帰るのも気が滅入る。 「だったらよぉ、剣心。もうラブホへ行こうなんて言わねぇからもうちょっとゆっくりして帰ろうぜ? 慌てて帰る必要はねぇだろ?」 前の剣心へと聞こえるように大きな声で話しかけた。 ラブホテルは諦めたとしても剣心とラブラブの気分だけはもう少し味わっていたい。どこかで飲み直して楽しい気分を取り戻さなければ、今夜こそ比古の嫌みに八つ当たりをして左之助自身がキレるかもしれない。 剣心がちらっと振り向いて頷いたように見えたが、相変わらず黙ったままで黙々と駅へと向かって進んで行く。 「オイ! 聞いてんのかよ?」 無視されたような気がして少し苛立ち、もう一度左之助が声を掛けた時に 剣心は横の辻をすいっと曲がった。駅へ行くならこのまま真っ直ぐだ。脇道に逸れたということは了解したということなのだろう。 「って、何だ? ちゃんと聞こえてんじゃねぇかよ。 オイ! 何処へ行くつもりだ?」 「もう少しゆっくりしたいんだろ? だったら黙って付いて来い。」 前方で立ち止まって振り向き、やっと剣心が話しかけた。 思えば左之助にはずいぶん迷惑を掛けている。普通の親だって他人が家に居ると思えば鬱陶しいだろうに 相手はあの比古だ。左之助の性格から言えばとうにキレていてもおかしくないのに 比古へとムキになっている自分を逆に諫めたりしてくれている。その思いやりにはこの数日間、ずいぶんと助けられた。そう思えば左之助の我が儘も無理はない。 今から行くところを知れば臍を曲げかけた左之助の機嫌がすぐにも直り あのふて腐れた顔がどんなに綻ぶだろうと想像すると愉快だが、それを知らせて今喜ばせるつもりはない。赤面させたお返しはきっちりさせてもらう。もう少しがっかりしていろ、と思う。 頭の後ろで手を組んでだらだらと歩きつつ 「へい、へい。」と左之助が返事をする。思惑が外れてつまらなさそうだ。それを目の端に止めてから剣心はまた前方へと歩き出した。 駅に近いだけあって、この通りもブティックやスナックなどが入った雑居ビルで埋まっている。頭上の看板を一つ一つ目で追いながら いったい何処の店に入るつもりだろうと思いながら剣心の後ろ姿を追って行く。しばらく行くと 洒落たカフェテリアの前で剣心が道を横切った。 「何だぁ? 茶かよ? 俺はどっちかってぇと酒の方が・・・」 独りごとを言い終わらないうちに剣心は カフェテリアの隣に有る自動ドアの中へと身体を滑り込ませていた。慌ててその後を追う。 二重になった自動ドアを抜けると ベージュ色の人工大理石で壁一面が覆われているエントランスに出た。ハロゲンライトで照らされた吹き抜けのホールは どうやらホテルのロビーらしい。 左手にはカウンターがあり、フロントと書いたパネルが壁に貼られている。が、カウンターの中には人影はない。正面には壁際に2基のキャッシュディスペンサーの様な機械が取り付けられていて 剣心はその機械の画面を覗き込んでいた。剣心の頭の上から覗き込むと画面には「シングル」「ダブル」「ツィン」と表示され、それぞれの空室状況と金額が書かれている。 やりぃ! コイツ、判ってんじゃねぇか!! 画面を見つめる左之助の目が途端に笑み崩れた。 剣心の指が「ツィン」を選ぼうとしている横からすかさず左之助が「ダブル」のボタンを押した。 唖然として振り仰いだ剣心に 「どうせ使うベッドは一つだ。だったら大きい方がいいだろ?」 耳元へ囁いて左之助がニヤッと笑う。「でも」と言いかけて機械に取り繕っても仕方がないと苦笑を零して 数枚の紙幣を機械に飲み込ませる。画面の表示が変わり、別の口からおつりとカードが吐き出された。それを受け取ってカードに記された部屋番号を確認し、右手にあるエレベーターへと歩き出す。 「全部自動かよ? 便利といやぁ便利だが何か味気ないな。これじゃラブホとあんまり変わんねぇじゃねぇか。あそこのフロントに人が立つ事なんて有んのか?」 「ああ、朝から夕刻までなら誰か居るようだな。この時間は何か用事があれば呼び鈴を押せば人が出てくるようだけど、人件費の削減だろ? ビジネスホテルなんてみんな出入りがバラバラだからな。」 「だけど・・・オイ、剣心。何でお前こんなとこ知ってんだ?」 「ん? よく来るからな。」 「・・・・って、お前、もしかして他のヤツと・・・・」 剣心の左手後ろを歩きながらボソッと呟いた左之助の一言に 振り向いた剣心の眉は釣り上がっていた。 「左之!! お前もう一度殴られたいか?」 「冗談だよ、冗談。んな怒んなよ。」 「俺が利用する時はいつも一人だ! 誰かと一緒に来たのは今日が初めてなんだからな。」 「判ったよ、そうムキになんなって。でも何でこんな所に一人で来るんだ? 家だってそんなに遠いわけでもねぇのに・・・」 「親父だよ。」 うんざりしたような表情を見せて剣心は エレベーターの横にある上を示す矢印を指で押す。 「お前もこの数日で判ったと思うけど 親子喧嘩なんてしょっちゅうだからな。出ていけだの出て行くだのは日常茶飯事なんだ。だからそんな時は顔を合わせているのも鬱陶しいから ほとぼりが冷めるまではビジネスホテルに泊まり込んで 親父が山へと帰った頃に家へ戻るんだ。最初はツレの家に転がり込んでたんだけど やっぱ、彼女とか来るだろ? 俺が居座ってたら邪魔だし・・・」 ということは 左之助が剣心を拾った日も同様の親子喧嘩で 金も無し、仕事も無し、住む家も無しだと思ったのは まったく左之助の勝手な思い込みということだ。剣心に同情して居候をさせたのに その割りに感謝もして居なさそうな素振りだったのも理由が分かれば合点がゆく。だったら思わせぶりな身の上話に義侠心を出した左之助は すっかり剣心にハメられたようなものだ。 世渡りが上手いというか何というか・・・・とにかく何てちゃっかりしたヤツなんだ・・・・・・ 守ってやらなきゃならないような儚そうな影を 時折その綺麗な顔に浮かべたりするくせに、計算高さは露ほども見せない剣心の後ろ姿を見つめて エレベーターに乗り込みながら今更ながらに呆れた。 廊下を挟んで左右に分かれた部屋のナンバーを辿り、目的の番号の扉の挿入口にカードを吸い込ませる。ロックが外れたところでカードを抜き取り、部屋の中の差し込み口に再びカードを差し込むと照明が灯った。 さして広くもなく狭くもなく、白を基調とした室内にはオーク材の家具がシンプルに配置されていて、どこにでもある型どおりのホテルの一室だ。Wベッドが壁際に寄せて配置され、ドレッサーを兼ねている机の鏡の横に PC用のコンセントと電話の差し込み口が有ることぐらいが わずかにビジネスホテルだと主張する程度ですっきりとまとめてある。 部屋の中程まで進み椅子に座る間もなく後ろで扉にロックがかかる音を聞いたと思った時には 剣心は左之助に抱きつかれていた。 「おい。そんなに慌てるなよ。先にシャワーを浴びるから。」 「シャワーなんて後でいいだろ?」 「ちょっとぐらい待てよ。今日は1日歩き回っていたから汗でべとべとなんだよ。」 それでも構わないと左之助の頬がすり寄ってくるが、身体の前に回された腕を巧みに解いて その腕の中からするりと剣心が抜け出した。 「ちぇっ。」 背中で聞く左之助のぼやく声は無視をして クローゼットを開けてバスタオルとタオルを手に取った。その剣心の背中を目で追っていた左之助は 衣装盆の中の浴衣にはたと目が止まった。剣心がクローゼットの扉を閉めても 左之助はそのまま扉を見つめ続け、何事かを考え巡らせているようだ。そんな左之助の様子には気づくこともなく、剣心はそのままバスルームの扉の向こうへと消えた。 シャワーの水音が微かにバスルームから聞こえてくると 左之助はおもむろにクローゼットの扉を開き、先ほどの衣装盆を探って浴衣の紐を手に取った。それを持ってベッドの側まで歩み寄り、二つ並んだ枕を見つめてしばし沈思する。 「やっぱ枕の下じゃやべぇかなぁ・・・・・でも、サイドテーブルの引き出しをわざわざ開けたんじゃ、何事かと訝しがるよなぁ・・・・事は迅速に運ばなきゃなんねぇし・・・・・決めた。きっと剣心は奥の枕を使う。見つかった時は笑いでごまかしちまえ・・・」 一人でブツブツ呟きながら 手前の枕の下に浴衣の紐を忍ばせる。そして上から枕を叩き、不自然さが無いように形を整えると安心したようにニンマリと頬に微笑をのせた。 剣心と入れ替わりにシャワーを使い、身体を拭くのもそこそこに腰にバスタオルを巻いただけで出てくると 剣心はベッドの壁際に背をもたせかけ 腹までブランケットを引き上げた姿でテレビを見ていた。手前のスペースを左之助の為に空けてあるのは 想像した通りだ。この分なら枕を動かしちゃいねぇなとホッとして まだ雫の残る身体で剣心の元へと歩み寄る。手にしたタオルを使いもせず、肩にひょいと掛けるとブランケットを半分跳ね上げて 勢いよくベッドの上の剣心へとダイビングをした。 「わっ、左之。ちゃんと身体を拭けよ。まだ濡れてるじゃないか。」 「いいって。こうすりゃ問題ねぇって。」 駄々っ子のように甘えてくる左之助の背中に手を回しながら、半分呆れて剣心が抗議する。肩に掛けているタオルを取って拭いてやろうとするが、雫など気にも介さない左之助は 腕の中に剣心を包み込み、早速キスのお見舞いをしながらゴロゴロとベッドの上を転げ回る。抱き合って上になり下になっている間も二人の甘いキスの応酬は続く。 のりの利いたシーツは早くも揉みくちゃにされ、ベッドの端からずり落ちそうだ。 肌が露わになった剣心を自分の身体で感じて 左之助が笑み崩れて言った。 「あっ、パンツも履いてねぇ・・・・」 「どうせすぐ脱がすんだろ?」 「違ぇねぇ。」 ちょっとした会話にも二人はくすくすと笑い、そして口唇はまた重なる。 久しぶりの開放感に身も心もくつろいで 左之助の指や口唇の動きに早くも剣心の吐息は湿り気を帯び始めた。次第に左之助の作り出す快感に夢中になってゆく。頃合いは良しと見て取って 左之助は先ほど目論んだ作戦を実行することにした。 左之助の肩に置いていた剣心の手を取って口づけ、しばらく弄んだ後 頭の上へと上げさせる。口唇は腕から脇へとなぞり、いかにも自然らしく振る舞う。それと知らず剣心は左之助のされるが儘に身を任せてくすんと鼻を鳴らしている。それを確認してからもう片方の腕も同じようにヘッドレストに届く所にまで上げさせた。両手を重ねさせ、手首から腕へと口唇で愛撫を繰り返し、空いた手は枕の下を探る。紐を掴んだ瞬間、剣心のその手首を片手で鷲掴みにして 一気に両手首へと巻き付けに掛かった。ほんの今まで安心して左之助に身を任せきっていた剣心は突然の豹変に驚き、声を荒げた。 「左之! 何のつもりだ!?」 「へへ・・・ちょっとしたお遊びだよ。」 「ちょっと、やめろよ。」 「ほら暴れるなって。どうって事無いからさぁ。」 抵抗する剣心が動けないように自分の全体重を掛けて押さえ込みながら、左之助はぐるぐると両手首に巻き付けてゆく。 「お前。悪い冗談だぞ!」 「んなこと言ったって、俺、昨日からお前のあの姿が目に焼き付いちまって・・・・お前も男ならそそられる気持ちって判るだろ?」 「お前なぁ・・・・だからって・・・」 「腕だけだから。なっ、イヤだったらすぐに解いてやるから。昨日はあんな中途半端で 俺、鼻血を吹きそうだったんだぜ。せっかくお前の親父さんが置きみやげをしてくれたって言うのにな。知ってたんならもっと早くに帰ってきたのに。んとに惜しいコトしちまったぜ。」 そう言いながらしっかりと剣心の両手首を縛り上げてしまった。どうあっても解く気はなさそうだ。 親父もとんでもない火を左之助に点けてくれたものだと うんざりした溜息を胸の中で吐く。 それとは対照的に左之助の目は爛々と輝き、昨夜と同様、あかずきんちゃんを目の前にしたオオカミだ。その嬉しそうな表情は 今にも舌なめずりをして食い尽くさんばかりだ。 左之助の目を盗んで縛られた手首を紐の中でちょっと左右に開いてみる。これならすぐにも自分で解けそうだと確認してから わざと不安げな表情を作って左之助に言った。 「本当にイヤだって言ったら すぐに解いてくれるんだろうな?」 「ああ。心配するなって。俺がお前の嫌がるようなことをするわけないだろ?」 どうだか怪しいもんだ・・・・ 剣心は胸の内で眉をひそめたが、ここまで嬉々とした左之助を見るとつれなくするのも可哀想な気がして 比古のしでかした後始末につきあってやるかと珍しく仏心を起こした。が、左之助を見つめる目には 同情を煽るような色合いは浮かべておく。可哀想だと思わせていつでも解かせる手筈だけは整えておこうと思う。 「今日はお前はじっとして ただ感じていろよ。一杯感じさせてやるからさ。」 自分の思惑通りに運びそうだと察知した左之助は 顔中笑顔を作って余裕を見せる。 やれやれ・・・・ もう一度心の中で溜息を吐き掛けた時、左之助がタオルを手に取って今度は剣心の目をふさぎに掛かった。 「オイ、左之! 目隠しまで!」 「ついでだ。ついで。任せとけよ。絶対に悪いようにはしねぇって。」 「何がついでなんだよ。もう! お前はいつもこんなコトして遊んでるのかよ? 悪い趣味だぞ。」 呆れるのを通り越してとうとう怒り出しそうな剣心へと 機嫌を取るようににへらにへらと愛想笑いを浮かべているが 左之助の手は休むことなくタオルを結びつけている。 「そんなことねぇけど・・・ほらっ、たまには違うこともしてみてぇだろ?」 「べーつにぃ!? 俺はいつも通りで充分いいけど!?」 もううんざりしたと言った口調で抗議を申し入れるが、左之助には馬の耳に念仏だ。 「まぁまぁ、そう言うなって。久しぶりだし、楽しもうぜ。」 何が楽しもうぜ、だ。楽しいのはお前だけだろ? 何でこんな目に遭うんだとむかっ腹が立ってきたが、頭の中一杯に想像を膨らませた左之助に これ以上何を言っても無駄のようだ。こんな状況に陥ることになった元凶の顔が脳裏に浮かぶ。 本当に、クソ親父!!!! 覚えていろよ!! 胸の内で思いっきり毒づいて 今日は左之助へのサービスデーだと抵抗するのを諦めた。 「んっ・・・はっ・あぁ・・くっ・あぁ・・・・」 白い喉を見せ、身体を小刻みに震わせて 剣心は押し寄せる快楽を訴え続けている。閉ざされた視界の向こうで左之助の息づかいが荒く響く。ぬめる舌に肌は敏感に反応し、時間を掛けて追いつめる左之助に翻弄されて シーツの波の中で惜しみなくその姿態を晒していた。 「はうぁっ・・さの・・・あぁっ・・」 左之助に身体の中を探られ、弱い部分を責められる度に 剣心の背は反り上がり緩やかな放物線を描く。 「剣心・・いつもよりよさそうじゃねぇか? ほら、すんげぇ濡れてる。」 左之助の掌の中で痛いほどに勃ち上がり、零し続ける雫が指をしとどに濡らし淫靡な水音がする。 「ばかっ・はぅ・・そんなことを・・わざわざ・ああっ・・言うな・はぁ・・」 自由の利かない手では押し寄せる快感に抗う術もなく、自分の手を握りしめるのが精一杯だ。いつものように左之助の肌に爪を立てやり過ごすことも出来ず、そのもどかしさに吐息が漏れる。 膝を割られ、内腿に左之助の吐息を感じ、視覚の利かないことが剣心の肌をより敏感にしていた。 「くっ・・駄目・だ・・・も・いきそ・・はや・く・・・」 「早く、何だよ?」 「んっ・・じらし・てないで・はぁっ!あっ・・来いよ・はや・・く・・・」 「まだまだ。先にこのままイっちまえよ。」 切れ切れに言葉を紡ぐ剣心に笑いを含んだ声で左之助が応える。この状況がかなり楽しいらしいとは その口調から明らかだ。 左之助の好きなようにあしらわれて 悪い遊びだと言った自分自身が 左之助の言葉通りにベッドの上で躍らされているのは 何とも片腹痛い。が、更に動きの早くなった左之助の指に抗うことが出来ない。急かすように左之助の舌が加わり、先を割られ筋をなぞり、敏感な部分を責められる。熱い粘膜に包まれ、強い刺激を加えられて翻弄されるがままに剣心はタオルの下で固く目を閉じた。 吐き出した欲望を飲み込み、口の中でビクビクと震える剣心への愛しさで左之助は目を細める。 まだ左之助の指を飲み込んでいる秘所はきつく締め付け、中の襞が余韻でひくつき誘っているようだ。 こんな時左之助は剣心がたまらなく可愛いと思える。すぐにでも自分が欲しいと言っているようで その期待感から嬉しくなる。 左之助自身も先ほどから欲望の出口を求めて張り裂けんばかりになっている。その欲望に堪らなくなって したり顔で左之助が言った。 「剣心。俺が欲しくてたまんねぇみたいだな?」 「ううん、要らない。」 「え゛っっ!!???」 思わず顔を上げた。 「出したらスッキリした。」 「へっ!!?? オイ!! それはないだろ!?」 左之助は慌てた。その表情は まるで事故に遭ってひしゃげたカエルのようだ。 タオルに覆われて剣心の表情は読めない。サクランボのような可愛い口唇が 冷淡に規則正しく言葉を形作るだけだ。そのスッキリとした線を描く顎を 呆然とした思いで左之助は見つめた。 「だって男なんてみんなそんなもんだろ? お前の言葉通りに満足したし、そろそろ帰るか。左之、解いてくれよ。」 「剣心!!テメェーー!!」 「・・って、冗談だよ。お前って、ホント、飽きないヤツだな。」 「もう怒った! ヤイ。剣心! お前の腰が抜けてももう許してやんねぇ!! 覚悟しやがれ!!」 言うが早いか剣心を二つに折り、猛り狂っていた自身をそこへと一気に埋め込んだ。 「つぅー!」 皮膚の引きつれる痛みに剣心が思わず声を漏らした。 「バカ! 突然すぎ。」 「うるせぇー。こっちはどれだけ我慢してたと思ってんだ。俺の下でひぃひぃ言ってろ!」 剣心の奥深くまで躰を進めながら左之助は思った。 冗談だって言ったけど コイツってマジかもしれないところがやばい・・・。これからはもうちょっと手順を考えなきゃな・・・とにかくこのままじゃすまさねぇぞ。 鼻息も荒く、煩悩と意趣返しの決意を持って左之助は剣心へと挑み掛かった。 少しからかい過ぎたかと左之助の声から察した剣心は不安を覚えた。このままではどんな扱いを受けるか分かったものじゃない。 「オイ。その前にこれを解けよ。」 自由になっておくに限ると 縛られた両手首を左之助の眼前へと差し出す。 「やだね。俺をからかった罰にそのまま縛られてろ。」 その手首をもう一度頭の上へと持ち上げ そのまま鷲掴みにし押さえつける。体重を掛けると勢いよく腰を動かし出した。 左之助が動く度に柔襞を絶妙な感覚で擦られ、一度放出した熱がまた下半身へと集まり出すのを感じる。 「んっ・・いつでも・・解いてやるって・んふっ・・いっ・たのに・・・」 先ほどまでの威勢も影を潜め、剣心の言葉が湿り出す。半開きの口唇から濡れた声が漏れ出すと 左之助は更に乱暴に剣心を抉った。 「あ・ああっ・・左之!そんな・に・・・・はぁあっ・・」 「こうしてっと何かお前をレイプしてるみてぇだ・・・」 「くっ・・はぁ・みてぇって・・んっ! レイプじゃないか・俺のこと・・好き放題・・はぁぁっ・して・・・」 「バカ言え! レイプされてお前がこんだけ歓ぶかよ? もっともお前じゃレイプする方も命が幾つ有っても足りねぇだろうけど。ほら、もっと感じて見せろよ。」 そう言って激しく身体の奥まで突き挿れる。 深い所まで貫かれ、引き抜き、敏感な箇所を責められて と、左之助は急に浅い所まで後退させて動きを止めてしまった。 上げていた足を降ろさせて 代わりに内腿を爪で擦り、胸の花を摘む。そのもどかしさに剣心の口唇から溜息にも似た吐息が漏れた。 「俺のこと欲しいだろ?」 鼻を鳴らし微かな喘ぎ声は聞こえるが何の返答もない。 「要らないって言ったその口で欲しいって言ってみな。」 意地の悪い響きを含みながら、左之助の指は執拗に剣心の胸乳をいたぶる。その度に剣心の口唇からは ねだるような甘やかな声が漏れる。強情な口とは反対に身体は正直だ。左之助を求めて誘うように剣心の腰が揺らめく。だが、それからも左之助は逃れて腰を引く。そのくせ指は益々剣心を煽り立てるように 緩慢な刺激を与え続けている。 「はぁ・ん・・意地の・悪い・ことを・・するなっ、んっ・・」 「どうして欲しい? えっ? 剣心よぉ?」 勝ち誇ったようにそう言って 1度だけ腰を進めてすぐに引き抜く。 「・あぅっ!・・もっと・・んっ・・」 「もっと? 何だよ?」 左之助の魂胆は見えている。が、あまりのもどかしさに気が変になりそうだ。情欲の火を点けておきながら燃えさかる矢先に燻らせてじらす。間断なく送られてくる胸からの刺激が じわじわと剣心を浸食している。身体の内部が左之助を求めてひくつき、燃え切れない熱が身体の中に溜まってゆく。それを楽しむかのように左之助は入り口付近を軽くつつき、期待だけをさせる。 胸の花に舌を這わせ、蕾を甘噛みする、熟れきって蜜を零し続けている楔の根元の密やかな袋を絞り出すように揉みしだかれると とうとう剣心は観念した。 「んっ・・ほし・い・・・」 「へへへ・・・やっと言ったな。いいぜ。剣心。幾らでもくれてやるぜ。」 ニカッと笑い左之助の嬉しそうな声と共に 腰が深く入り込んだ。 「ああっっ!!・・もっと!はぁあ・・」 一度堰が切れると後はもう何も考えられず、左之助の動きに夢中になった。 もどかしくて左之助に飢えていた。貫かれる度に柔襞が左之助に絡みつき、痺れるような快感が身体を駆け抜ける。待ち望んだ刺激に浅い呼吸を繰り返し、背をしならせては歓びの声を上げた。 剣心の頬は上気してピンクに染まり、首筋にうっすらと汗が滲む。時折、乾いた口唇を紅い舌で濡らす艶めかしさに 左之助も脳髄の奥まで痺れた。 「あぁ・・左之!狂・・う・・・」 「俺だってどうにかなっちまいそうだ・・」 いつもより激しく乱れる剣心に擦り上げる左之助も溺れた。 力強く打ち付ける腰の動きに剣心の漏らす吐息とベッドの軋む音が重なる。濃密な空気に包まれ、汗に濡れ、腕の中で左之助が欲しいと訴える恋人だけが今は世界のすべてだった。頬を寄せ、愛しさに「剣心。」と耳元で名を呼ぶ。左之助のその声の響きまでもが狂おしく、甘い疼きが麻薬のように剣心を陶酔させる。 「も、左之!・・あぁっ・いき・たい・・」 左之助の腹筋に擦られて 腹をも押し上げんばかりに硬く屹立して脈打ち、解放される時を今かと待ち望んでいる剣心の零し続けた蜜が 左之助の腹を濡らし、その淫靡さが更に左之助を駆り立てる。切なげな声に手を添えてやり、擦り上げ追いつめ、自身も収縮を繰り返し絡みつく剣心の更に奥を目指した。 体内で荒れ狂う嵐が剣心を掴まえ、蹂躙する。激しく上下する左之助の動きに合わせて押し寄せて渦を巻いていた熱が 全身を痺れさせ稲妻のように炸裂する。と同時に、狭まった蕾に締め付けられ硬さを増し、低く呻いて奥深くへと左之助が熱い欲望を一気に放った。身体の奥深くまでたたきつけられた左之助の熱を感じて痺れるような疼きに酔い、一つに繋がっていることへの深い満足感が剣心の胸に広がった。 ところが・・・・・ ハメられたと思った時には遅かった。 「解け。」と言っても一向に頓着せず、上に下にと転がされ、抵抗出来ないのをいいことに 好き放題に嬲られ、喘がされた。 「幾らでも」の言葉通りに何度も貫かれ、「抜かずのン発。記録更新に向けて。」などと息巻いている左之助に目を剥いた。 堪りかねて自分で解いて 左之助の腕をすり抜ける。 「あっ、自分で解きやがった。きったねー。」 などと疲れを知らない若者は恨めしげだ。 「どっちが汚いんだ! お前、すぐに解くって言っただろ? きりがない。今日はこれで打ち止め!」 そう言う声も掠れていて、少々喉が痛い。 「ちぇっー! せっかく記録をおっ立てようと思ったのによ。」 「そんな記録は自分一人で作ってくれ。お前ってホント馬並み!!」 「何だよ、馬並みって。」 「大きさも回数も!!」 剣心が悪態をついてもアハハと笑って左之助は軽く受け流す。溜まりに溜まっていた欲求を吐き出して スッキリ爽やか、気分も上々といった表情だ。恨めしげに睨み付け、これ以上はごめんと辟易しながら抜けそうにだるい腰に手を当てた。 タオルを外した目に光が眩しい。太陽が黄色く見えるっていうのは本当だったんだと思ったら 部屋の明かりが煌々と点いたままになっていた。その中で様々に痴態を繰り広げ、乱れていたのは自分ばかりで 左之助はつぶさに自分を観察し喜んでいたんじゃないかと思うと 熱が去った今は火を噴くほどに恥ずかしいし、憎らしい。 「なかなか良かっただろ?」とにやけて言う左之助に いつもと違う新鮮さに気分も高揚して感じすぎたなんてとてもじゃないけど言えない。素っ気なく「疲れた。」とだけ答えておく。 これ以上左之助を喜ばせたりしたら この先どんなに左之助に攻められるか分かったものじゃない。こっちは年寄りなんだ、これ以上搾り取られてたまるか、と剣心は思う。 ベッドでぐずぐずしていたら また左之助に襲われかねない。シャワーを浴びに行こうと思うのだが、使いすぎた腰に力が入らない。よたよたと起きあがる剣心に 後ろで愉快そうな左之助の笑い声が響いた。 〈 NEXT 〉 〈 BACK 〉 |