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翌日の日曜日、遅い朝食を済ますと剣心は荷物を取ってくると言って家を出た。小一時間もすると白いベンツに布団と旅行鞄に詰めた身の回りのものを載せて帰ってきた。部屋へ運び入れると またさっさと車に乗って出かけてしまった。それからさらに小一時間、戻ってきた時にはスーパーの袋を下げていた。
「車はどうしたんだよ?」
尋ねる左之助に ここじゃ駐車場に困るからマンションに置いてきたと言う。
「ベンツなんてすげぇな。」
学生の左之助には夢のような代物だ。
「そうでもないさ。中古だし、あれぐらいならまじめに働けば誰でも持てるさ。」
何でもないことのように言う剣心に いったい今までどんなところに住んでいたのかと 行き場が無くて同情していた自分の境遇が矮小に思え、目眩を感じる。こんな小さなウサギ小屋などすぐに飽きて出て行くだろう、その時はそう思った。

その日は礼のつもりか剣心が買ってきたステーキを焼いてくれ、夕飯の支度もしてくれた。
昨日と違ってキビキビと体を動かす剣心を見ていると 余程痛かったんだろうなと思う。
俺、とんでもなく可哀想なことをしてしまったのかも・・・・罪悪感に胸がチクチクと痛み、意地だけではなく、2度と手は出すまいと心に決めた。


一緒に住んでみると剣心とは結構気が合うことが判った。好きな番組や映画、スポーツや料理の味付けなど好みがよく似ていた。しかし、気の強いのは相変わらずで、機嫌もわりとお天気屋である。無邪気にあどけない笑顔を見せてけらけらと笑っていたかと思うと 辛らつな言葉を吐き、例の調子でからかっているのか 本気なのかあっけらかんと調子っぱずれなことを言う。それに、手を出さないと決めた左之助に 煽るような仕草を見せるのも左之助には癇に障った。と言っても、男同士だから風呂から上がった後、パンツ一枚で部屋の中をウロウロしていたりするのは当然のことで、長い髪を乾かす度にその髪からシャンプーの香りが漂うのも別に剣心の所為ではないのである。その度に左之助は目のやり場に困り、無性に腹が立った。これじゃ身体がもたねぇ、早いところ部屋を探してくれよといつも思うのである。
思えば剣心がこの家に住み着くようになってからと言うもの、左之助の日常は乱されっぱなしなのだ。友人とのつき合いもそこそこにバイトが引けると飛んで家に帰ってくる。まだ次の職が決まらない剣心は家にいて、左之助のために夕食を作っていてくれたりする。これじゃ新婚生活の夫婦のようだと思うが、友人たちと飲みに行く気にもならないのだから現金なものだ。
部屋には剣心が買ってきたアルバイト情報誌や就職情報誌が散らばっている。それらを横目で見ながら その中に住宅情報誌が混じっていないか素早く確認する。しかし、どういう理由かいつもそこには住宅情報誌は1冊もなく、その度に左之助は密かにホッとしていたりする。剣心は部屋を探すとも言わないし、左之助はあえて探せとも言わなかった。しかし、ベッドの中に潜り込む時には剣心の寝息を聞きながら、やっぱり明日こそは出て行って貰おうと思うのである。

そうこうするうちに剣心の就職もようやく決まり、左之助にも以前の日常が徐々に戻って来つつあった。だが、コンパにはいっさい顔を出さなくなったし、飲みに行くのも回数は格段に減った。前は楽しかったバカ騒ぎが何処かシラケた自分が居て、前程心から楽しめなかったりする。急いで帰ったところで剣心が待っているわけでもないが、たまに一緒に過ごす時間が持てたりするから やはり家へと足が向いてしまうのである。外で食べる時にはお互いの携帯にメールを入れ、連絡のない時には早く帰った方が夕飯の支度をするという事が 暗黙のうちに決まっていた。
剣心の今度の就職先は設計事務所だった。
「CADを使えるって言ったら一発で内定した。」
帰ってきた剣心は嬉しそうに語っていた。
「お前、色々と出来るんだなぁ。」
感心して左之助が言うと
「建設会社に居たことがあるからその時にな。職歴だけは色々遍歴を経てるから。」
それだけ言い寄られて辞めたと言うことか・・・・いったい何人ぶちのめしてきたことか・・・・
左之助の頭の中には禿げたオッサンが束になって 剣心にぶちのめされて横たわっている姿が浮かんだ。
「設計事務所なら髪も切らなくてもいいみたいだし、結構みんないい人そうで働きやすそうだ。」
「何だ? 髪、長い方が好きなのか?」
「そうでもないけど、前の仕事の時に忙しくて散髪に行けなかったんだ。そのままにしてたらどんどん伸びてきてさぁ、伸びたら伸びたで切るのが何となく惜しくなったって理由さ。」
その綺麗な髪を指で弄びながら剣心がにっこりと笑う。
頼む。切ってくれ。でないと俺、気が変になりそうだ・・・・とは、そのあどけない笑顔に当てられて 似非紳士面の左之助は口が裂けても言えなかった。



ある日の午後、左之助はゼミが引けると早々に家へと戻ってきた。ガソリンスタンドのバイトは今日は休みだ。風邪で休んでいた俊二が昨日から出てきていて、俊二の休みの間、代わりに働いていた左之助へと店長が休みをくれた。この週末はずっと働いていたから久しぶりに見たかったビデオでも見て、ゆっくり過ごそうと思っていた。
帰りにコンビにに寄り、軽食とスナック菓子を買いこんで今日はカウチ族と決めていた。ベッドに転がり、ビデオのリモコンのスイッチを入れる。半分程見たところで玄関のチャイムが鳴った。
新聞の集金か何かかと思って扉の覗き窓から覗くと、同級の梓が冷たい風に煽られて鼻を赤くして立っていた。何であいつ俺のマンション知ってんの? とは思ったが、きっと男友達の誰かから聞き込んできたのだろう。

左之助は女友達をこのマンションに入れたことはない。それというのも、前にちょっとした修羅場を経験したからだ。そのころ左之助には本命の彼女が居た。当然二人のデートの場は左之助の部屋と言うことになっていた。だが、ある日のこと、浮気心から他の女を引っ張り込んでしまった。そこへよくある話で本命の彼女が来合わせてしまった。相手の女の乱れた服装を見て、本命の彼女にはひっぱたかれて逃げられるし、浮気相手の女からは
「あんたって、サイテー!」
と冷たい視線を投げかけられた。それ以来、女友達はこの部屋へは呼ばないことに決めていた。会う時は相手の部屋かホテルを利用する。そうすれば尻尾は掴まれないし、何とでも言い訳もつくというものだ。それに女というヤツは部屋に上がり込むと何かと詮索したがる。それも左之助には鬱陶しかった。
だいたい左之助はよくモテる。筋肉質で居ながら引き締まったボディに上背があり、結構何を着ても似合う。浅黒い肌に彫りの深い顔。切れ長の涼しい目で笑う口元には白い歯が覗いているのだ。それだけでも女は放っておかないだろうが、快活で友人たちの面倒見も良くウケがいいと来れば、こぞって女たちが押し寄せてくる。だから剣心に自分で言った通り、女に不自由をしたことがないのだ。梓もそんな取り巻きの一人だった。

覗き窓の外の梓を見てどうするかなと一瞬思ったが、この寒空に何時までも外に立たせておくのは可哀想だし、スェットですっかりくつろいでいたのに着替えて出て行くのも面倒だ。扉を開けて左之助は梓を招き入れた。
「やっ、どうしたんだ? わざわざ訪ねて来るなんてよぉ?」
いつもの快活な笑顔を向ける。その笑顔を上目遣いで見上げて梓がはにかみながら答えた。手にはケーキの箱をぶら下げている。
「ウン、相楽ぁ、最近つき合い悪いし、具合でも悪いんじゃないかと思って様子を見に来たんだ。」
「はい、これ。」と言ってケーキの箱を手渡された。始めから上がり込んでお茶でも飲んでいく積もりのようだ。仕方なしに左之助も「その辺に座れよ。」と言ってダイニングの椅子を指さした。部屋の中をキョロキョロと見回し、女の匂いはないかと隅々までチェックを入れているようだ。だからイヤなんだよ、とは心の中で思ったがもちろんそんな素振りはおくびにも出さない。上着を脱いで腰掛ける梓の今日の服装は 薄手のセーターの胸元が広く開いていて、尖ったバストの上半分が覗いている。笑う口元も真っ赤なルージュが引かれていた。
何だ、これ、俺を誘ってんの? いつもなら据え膳食わぬは男の恥とばかりに いただきますと頂いちゃうところだが、露骨にミエミエなところが何とはなしに興を削がれ、そんな気には更々なれない。梓とは2度程ホテルに行ったこともあるが、だからといって彼女というわけでもない。左之助にとっては気の合う女友達の一人にしかすぎないのだ。気軽に遊べる相手、そんな感じだった。だが、こうして家にまで押しかけられたりすると これ以上の深入りは禁物だと男の本能が教える。そんな左之助の思いなど知るよしもなく、梓は共通の友人の事や、大学の教授のことなどたわいもない話を並べ立てている。
途中で梓がトイレを貸してくれと言った。バスルームのドアを顎で示し、教えてやる。しばらくして戻った梓が
「相楽ぁ、あんた男のくせにトリートメントしてんの? そのツンツンの頭で?」
と聞いた。
トイレに行ったくせにその向かいのバスルームまで覗いてやがんのか? まったくこれだからよぉ、イヤになっちまうぜ・・・・・ちょっと批判の意味を込めて左之助がジロッと睨むとバツの悪そうにして梓が言い訳がましく言った。
「やん、ちょっとケーキで指が汚れちゃったから、石鹸借りようと思ってバスルームを覗いたらトリートメントなんか有ったからさぁ、可笑しくって。」
「それはツレんだよ。俺じゃねぇよ。ロン毛のヤツなんだよ。シャンプーすると髪が絡まるんだとさ。」
「何? 一緒に住んでんの? だから歯ブラシが2本有ったんだぁ。まさか女?」
本題はそれかよ! 梓は極力明るく問い返しているが、返答によっちゃ一戦構えてもいいという目つきだ。
「この部屋の何処に女の匂いが有んだよ! ヤローだよ。部屋を追い出されて行くところがないって言うから泊めてやってんの。」
「だよねー。何処を見ても男物ばっかだもん。」
間髪入れずに梓が明るい声で同調する。どうやら隅から隅までチェックは終わったようだった。
左之助はもうげんなりして早く梓に帰って貰いたかった。日が落ちてきて、ともすれば剣心が帰ってくるかも知れない。別に女友達が部屋に来ていたからと言って気にする必要などまったく無いはずだが、変な誤解は受けたくない。いや、手を出しているから誤解でも何でもないのかも知れないが・・・・
帰ってきた剣心の前で彼女面されるのは左之助にとってはおおいに迷惑だ。だからまだ話したそうにしている梓に
「もうすぐそのツレが帰ってくるかも知んないし、今日、俺、夕食作んの当番なんだ。そこのスーパーへ何か買いに行くからそのついでに駅まで送ってやるよ。」
と言ってさっさと追い出してしまった。スゥエットの上にダウンジャケットを羽織ったままの姿で出かけたが、足下から冷たい風が入り込んできて わざわざ出かける羽目になった梓をちょっと恨んだ。
駅へと送った帰り道、左之助の携帯にメールが入った。開いてみると剣心からだ。「夕飯は要らない。」とだけの簡単なものだった。剣心はまた帰りが遅くなるようだ。一人分の材料を買い込むのも面倒くさくなって、またコンビニで冷凍の焼きめしとカップ麺を買った。家に戻ってカップ麺を啜りながらビデオの続きを見、ビールを空けていたらいつの間にか本数を重ねていたのか そのままうとうとと眠ってしまった。

夜半過ぎに剣心は帰ってきた。電気が点いているから起きているのかと思ったら左之助はしっかり夢の中だ。とっくに終わったビデオは青い画面を映し出している。ビデオの電源を切り、布団からはみ出している左之助の上半身に布団を掛けてやる。喉が渇いて水を飲もうとシンクに行ったら洗い物もそのままだった。
早朝にコーヒーを飲むために洗うのも面倒くさい気がして シャツの袖をまくってからスポンジに洗剤を浸した。フライパンやカップなど無造作にシンクの中に詰め込まれている。それらの一つ一つを手にとって綺麗に洗い上げていると 自分がいつも使っているマグカップに赤い口紅がべっとりと付いていた。剣心はそれをじっと手にしたまま見つめていた。先ほどまでは柔和な色を浮かべていた青い瞳が 今は冷たく妖しげに瞬いている。しばらくその場に立ちつくしていたが やおらシンクの中に戻して洗うのを止めてしまった。

翌朝、左之助が目覚めた時にはもう剣心は出社した後だった。シャツやら下着やらが洗濯機の中に放り込まれていたから 帰ってきていたようだと思った。朝食のために牛乳を飲もうとカップを探したら シンクの中に放り込んだままになっていた。昨夜の洗い物もそのままだ。仕方なしに洗いかけたらマグカップが一つ割れていた。剣心が気に入ってたヤツなのに・・・今日の帰りに同じようなのを探してみるか・・・そう思っただけで手早く片づけた。

それから2日間、剣心は帰りが遅く左之助と顔を合わせることはなかった。3日目の夜、左之助がベッドの中でうつらうつらと眠り掛けていたら、派手に鉄の扉の閉まる音がして剣心が帰ってきたようだった。いつもは静かに開け閉めして剣心が帰ってきたことさえ気づかせないのに その日は扉の閉まる音で左之助の眠りは妨げられた。キッチンから鼻歌らしきものが聞こえる。その鼻歌が徐々に近ずき、えらく上機嫌じゃないかと薄闇の中で目を開けてみると キッチンの扉がわずかばかり開かれたままになっていて 明かりが漏れている。寝ていた左之助の目にもはっきりとベッドの側に立つ剣心の姿が見えた。調子っぱずれの鼻歌らしきものをまだ口ずさんでいる。
「酔ってるのか?」
「酔ってなんかいませんよ〜〜。」
節を付けて返事をする。かなり飲んでるな、これはと思っていると 剣心が次々に服を脱ぎ始めた。その脱ぎ方も身体から衣服を剥がすといったような感じで シャツのボタンを外す手もまともに機能してはいない。よくこれでここまで帰って来れたものだと思う。その間も剣心の鼻歌は続き、足下はふらついている。ようやく全部脱ぎ終わってパンツ一枚になると 左之助の寝ている布団を剥がして潜り込んできた。
「お、おい! 剣心! お前、布団敷けよ。」
「あ〜〜ん? 布団ならここに有るじゃないかぁ〜。」
「ここは俺のベッドだよ! 酔っぱらってないでちゃんと寝ろよ。」
「だからぁ、寝るから布団に入ったんだよ〜〜。」
けらけら笑いながら左之助の鼻を摘み上げる。
「いてぇな、コラッ!」
「あ〜〜、左之助が怒ってる〜〜、何でお前ここにいんのぉ?」
「もぉ、ンとによぉ! そんなコトしてっと食っちまうぞ。」
何を言っても処置なしと言った体でキャッキャと笑い、左之助にかじり付いてくる。
「よせよ、剣心。」
抱きつかれ引き離そうとした左之助の手が剣心の背中に回り、腰に手を回そうとしたら
「ヒャッッ!」
と小さな声を上げて身を逸らした。行き場の失った左之助の手はそのまま剣心の背を撫でていた。
「ぁ、ぅふぅ〜〜ん。」
と鼻にくぐもる声。
ちょ、ちょっとこれってやばいよなぁ・・・・しかし左之助の手は張り付いたように剣心の背中から離れない。吸い付くようなすべらかな肌の感触を存分に味わって、そろりそろりと背中から項へと手は這い上がる。その度に剣心の唇からは
「はぁ〜〜ん。」
と溜息にも似た声が漏れる。
「け、剣心?」
おそるおそる声を掛けてみると
「ん〜〜ん、気持ちいい〜〜〜。」
と声が返ってくる。
ああ、もう俺、ダメ。限界みたい・・・・・ 
項にあった手は前に回り剣心の胸を彷徨いだした。小さな尖りを見つけ優しく撫でて摘んでみる。
「キャハハハ、くすぐったい・・・・」
笑い声を上げながら時折「ぁん・・・」と声が漏れる。脳天直撃、理性の吹き飛んだ左之助は 体をくるりと回して一気に剣心を組み敷いた。もうこうなれば月夜に吠えるオオカミだ。剣心が来てからと言うもの右手だけがお友達だった左之助の下半身は 熱を持って熱く疼き出している。
左之助に触れられて起ち上がった胸の尖りに唇を押し当て、舌で転がし、吸い上げる。残りの片方も左之助の指に弄ばれ、つんと上を向いて起ち上がった。
「・・んん・・・」
笑い声が静まり剣心の背が反りあがる。左之助の空いた方の手はなめらかな肌を滑り剣心の下腹部へと伸びていった。下着の上から触れると芯を持ち、熱く熟れている。布地越しにゆっくりと扱いてやるとさらに堅くなり、左之助の手をビンビンと跳ね返す。
「・・・んっ・・・・」
甘い吐息が左之助の頭頂部へと吐き出される。
「いいのか?剣心・・・・・俺、我慢出来ねぇよ・・・・」
「んっ・・・」
頷いたのか喘ぎ声なのかともかくウンと言ったんだからと 左之助の手は下着に掛かり、剣心の肌を剥き出しにした。柔らかな内股から手は徐々に這い上がり、直に触れると燃えるように熱い。鈴口に指を這わせ、その裏を優しくさすってやると 濡れそぼった先から透明な蜜を零しだした。掌全体で先を覆い、手を湿らせて剣心の雄を握ってゆっくりと扱きだす。
「・・ぁ・・んっ・・・・」
眉間に眉を寄せて快感に耐える姿は この上もなく艶めかしい。長い睫毛がふるふると震えて薄明かりの中で人形のような顔立ちに陰を落としている。その姿は左之助の欲望を煽り立て、俄然鼻息も荒くなった。そのまま指をさらに剣心の奥深いところへと滑らせていく。密やかに息づくそこに触れると 左之助の指を拒むようにしっかりと閉じられている。剣心が零した蜜を指に絡め取り、閉じた秘所へと少し力を込めて指を忍ばせる。
「・・んっ・・うっ・・・・」
腰に力が入り左之助の進入を押し返そうとする。それに構わず更に指を奥深くまで差し入れた。
「・・ん・・イタっ・・・・い・・・・・」
「痛むのか?」
罪悪感がチクリと走り、左之助は慌てて指を抜こうとした。
「キャハハハ・・・痛く・・ないよ〜〜〜。んふぅ・・・・」
何が可笑しいのかまた笑い出しながら 揺れる腹筋が左之助の指を締め付ける。
アルコールの作用が痛みを麻痺させ、剣心の意識を奪い取っているようだ。
構わねぇのか? 俺、本当に犯っちまうぞ? 左之助の怯む気持ちを剣心の押し殺した声が煽り立てる。また、そっと指を動かし出した。
「・・うぐっ・・・ん・・・」
剣心は片手を口に当て声を押し殺そうとしているかの様だ。薄い肩が浅く息をし、上下に揺れている。
飲み込まれた指を抜き差ししながら内壁の壁を刺激すると 左之助の指に絡みつき締め付ける。背中を撓ませ 剣心の口からは喘ぎ声が漏れだした。指を2本にして更に中の襞を刺激する。喜びに震えるかのようにヒクつき、左之助の指を飲み込もうとするかのようだ。もう左之助の分身はガチガチに堅くなっていて下着の中で猛り狂っていた。
左之助にももう余裕はない。着ていたパジャマや下着をひと息に脱いで剣心の足の間に割り込んだ。膝裏に手を掛け更に大きく足を開かせる。そして、解したとも言えない場所へと自分のモノを宛った。
「んぐ・・んぐぅ・・・・あぁ・・・・」
剣心は首を振り、肩を大きく上下させて今や両手で自分の口を押さえている。進入を拒まれ、左之助は自分の零した蜜を塗りつけて奥へと進もうとした。
「・・ぐふっ・・んぐぐっ・・・」
剣心は更に大きく喘ぎだした。 
ん? 喘ぎ声にしちゃ何かおかしくねぇか・・・・? 違和感に顔を上げて剣心を見る。その途端に左之助は顔面蒼白、一気にパニックに陥った。
「あぁ・・・・・気持ち・・悪い・・・・・」
必死に両手で口を押さえているその間から えずき声が漏れている。
「うわぁ!!待て!!剣心!!!!!」
「ダ・メ・・・・・み」
「うわぁーーーーー!!!ヤメろ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」
左之助の必死の喚き声も空しく、我慢の限界を超えた剣心の口から盛大に汚物が振りまかれた。
べとべとに濡れた自分の身体と剣心を交互に見て、左之助はガックリと肩を落とし、途方に暮れるばかりだ。先ほどまでの元気はどこへやら 左之助の分身はすっかり萎えきっていた。



呆然と過ごす時間が過ぎると重い溜息を一つ吐いて やおら左之助は体を起こした。この惨状を引き起こした張本人は スッキリしたのか静かに横たわっている。
「どうすんだよぉー、この始末をよぉ!」
問いかけても返事はない。
左之助は泣きたい気分だった。剣心の快楽を引き出したと思っていたのに それがえずき声だったなんて・・・・おまけにこの惨状だ。
はねのけた掛け布団からシーツを引っぺがし、それでのろのろと身体を拭った。その間も剣心はピクリとも動かない。動かないどころかすやすやと寝息を立てているようだ。仕方なく剣心の身体も拭いてやり、抱き上げてバスルームへと運んだ。華奢で左之助より一回りも小さい剣心でも 正体もなく眠りこけていると シャワーを掛けて洗ってやるのにずいぶんと手間取る。シャワーの飛沫が左之助の身体を濡らし、冷気が一層体温を奪い取っていく。2つ程大きなくしゃみを漏らしながら、剣心をバスタオルで拭ってやり、キッチンの床に寝かせて下着やパジャマを着せてやった。そして布団を敷き、そこへと運んだ。剣心を寝かしつけてしまうと 今度はベッドの敷布を剥ぎ、丸めて置いてあった掛け布団用のシーツも持って、バスルームへと向かった。裸のままでぶるっと身震いしたが、どうせまた濡れるのだからとそのまま洗濯を始めた。あらかた汚れを落として洗濯機に放り込み、それからようやく熱いシャワーを浴びた。真冬の気温で身体はすっかり冷え切っていた。
新しいシーツを敷き、ホッと人心地をついた時には 夜は白々と白み掛けていた。ベッドの横では平和そうな顔をして 剣心が健やかな寝息を立てている。サイドテーブルに手を伸ばし、パッケージからタバコを1本抜き取った。銜えたタバコから吐き出された煙は 重い溜息と共に部屋の中を漂っていた。



「痛ぇな! 何すんだよ!!」
早朝、左之助の大きな声が響き渡った。
眠ったとも思えぬ程の時間に剣心に鼻をつねり上げられ、真っ赤になった鼻を押さえながら左之助が抗議の声を上げていた。出社の準備をすっかり整えた剣心がベッドの側に立ち、片方の眉を不審そうに持ち上げて左之助を睨むともなく見下ろしている。
「お前、昨夜俺に何かしなかったか?」
ギクッとして一瞬怯んだ。
「何だかケツが痛いんだよなー。」
そう言って尻を片手でさすっている。
しかし、昨夜の惨状がすぐに思い出され、握った拳がワナワナと震える。
「ンなもん、知るかよ!」
「ホントかー?」
剣心は不審いっぱいの目つきだ。太平楽に寝ていたくせにと思うと 昨夜の説明をするのも胸くそ悪い。
「昨夜はひどくご機嫌だったから 大方どこかのエロジジイにでも掘られたんじゃねぇの?」
しまったと思った時には遅かった。
バコッッッッッ!!!
剣心のパンチが顎に飛んできて、左之助はまたもや夢の中へと叩き込まれた。
「まぁったく!!!!」
両手をポンポンと払い、
「頭に来んぜ。」
と言い残しながら、扉を閉めて出て行く剣心の靴音が響いた。
「ンとにアイツは悪魔だーーーーーーーーー!!」
夢の中で空しく左之助は叫んでいた。

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