【 闇の果て・・・ 】
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 辺り一面は暗闇だった。
 足下に広がる大地は、どこまでも枯れ果てていた。
 赤茶けた地肌には、縦横無尽に傷が走り、それが瘡のように所々めくれ上がっている。
 その上を、日干しのように乾いた雑草が頭を垂れ、乾いた大地にしがみついている。
 茫洋と広がる荒野は薄墨色に染まり、中天にはかかる月もない。
 月だけでなく、星もなければ一片の雲すらない。
 どこまでも広がる暗闇だけが、すべての物を飲み込むかのように広がっている。 
 時折、乾いた風が頬をかすめてゆくが、疲れ切った身体をあざ笑うがごとく過ぎ去るのみだ。
 
 ―――どれほど歩いてきたのだろう。
 ―――そして、どこへ行くというのか。

 果てしなく広がる暗い大地。 
 どこまで行っても孤独な空間。
 剣心は独り、その中を歩いていた。
 
 纏っていた着物は擦り切れ、履いていた草鞋はとうに痕跡をとどめていない。
 素足に食い込む瓦礫が無数の傷を作り、流れ出た血がどす黒く付着している。
 腰に帯びていた逆刃刀を鞘ごと杖代わりに使っているが、足に力はなく、急勾配の山道を行くがごとくに腰は萎えている。
 それでも、立ち止まることは許されず、また立ち止まることさえ思いつかず、ぼろぼろに傷ついた身体を前へ前へと運んでいる。
 
 これまで通り過ぎた大地に、家らしきものは一軒もなかった。
 今こうして辺りを見渡しても、行灯の灯りはおろか、狐火さえ暗い大地には浮かんでいない。
 だが、視界の果てまで無限に広がるかと思われる漆黒の闇は、足下一帯だけが奇妙に明るい。
 朽ち葉色の帯が、煙のように中空に漂い、広がる漆黒をわずかばかりの景色に変えている。

 ―――ずっとそれ以上でも、それ以下でもなかった。

 歩き続けるようになってから、どれほどの月日が経っているのか、はたまた、一日たりとも過ぎていないのか。
 朝も来なければ、夜もない。
 昇るはずの太陽は、日の出を見ず、月は大地に埋もれたまま。
 ただ目の前には、頑然と乾いた地面と赤茶けた草があるだけだ。

 「誰か。誰か居ないのか」

 幾度となく声の限りに叫んだが、それは耳の中にわずかに木霊しただけで、まるで無音のように闇の中へと吸い取られてゆく。
 何度繰り返してみても結果はいつも同じで、誰かの応えが返ってくることはない。
 およそこの世の生物という生物は死に絶えてしまったのではないかと思われるほど、辺りは深閑と静まりかえっている。
 耳に届くものと言えば、ボロを引きずる自分の足音と、忘れた頃に吹く乾いた風が、干からびた草を震わせる微かな音だけだ。

 ―――いつまで歩き続けなければならないのか。
 ―――どこまで行けば終わりが来るのか。
 
 これ以上にない孤独と疲労を背負いながら、科せられた使命のように、剣心はただひたすら歩き続けていた。


                     
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